夏の果物で夏バテ予防

食養生   蛭子喜隆

 今回は、夏バテ予防におすすめの果物と、夏の過ごし方についてご紹介します。

夏バテ対策に果物を

 暑い夏の時期には、いくら水分をとっても喉が渇いたりすることがあります。水を摂り過ぎることで、お腹にピチャピチャと水の音がする「胃内停水」という状態になってしまうことも多くあります。こういった場合は、水による水分補給よりも、果物から水分をとることをおすすめします。

スイカ

夏といえばスイカですね

 西瓜の薬味・薬性は、甘淡・寒。(『本草綱目』巻二十三)

 明代の李時珍によって著された本草学書の『本草綱目』には「煩(わずらい)を消し、渇(かわき)を止め、暑熱を解す(消煩。止渇。解暑熱。)」と記載されており、さらに「酒毒を解す(解酒毒)」とも書かれています。スイカは熱をさます効果があり、口の渇きを癒すには最適です。

バナナ

一年中入手可能ですが、夏向きの果物です

 甘蕉の薬味・薬性は、甘・大寒。(『本草綱目』巻十五)

 バナナは体内の熱を冷ます作用が強く、「生食すれば渇きを止め肺を潤す(生食止渇潤肺)」されています。

 お店で売られているバナナは、未熟のものが多く、未熟のバナナは固くて独特のえぐみや青臭さがあり、消化にも悪いとされています。そのため、良く熟したものを買うか、熟してから食べることをおすすめします。よく熟したバナナは、シュガーポットとよばれる黒い斑点が多くあり、甘味も多く消化にも良いとされています。

口が渇くときにおすすめ

 梨の薬味・薬性は、甘・微酸・寒。(『証類本草』巻二十三)

 梨も冷やす効果が強く、飲酒時の渇きにもよいようです。『金匱要略』では「梨は多食すべからず。人をして寒中せしむ。(梨不可多食。令人寒中。)」とあり、食べ過ぎると体を冷やしすぎてしまうので、冷えやすい方や、下痢しやすい方などは注意しましょう。

夏の過ごし方

 近年は夏の暑さが異常で、熱中症を心配される方が多くいらっしゃいます。特に発汗による脱水には注意が必要で、こまめな水分補給が必要です。ただし、発汗そのものは悪いことではありません。『素問』という古代の医学書には、夏に積極的に発汗することを推奨しており、夏にしっかりと汗をかかないと秋に体調不良になると記載されています。

  • 夏暑に汗出ざる者は、秋に風瘧を成す。(『素問』金匱真言論篇第四)  ※「風瘧」:瘧(おこり)はマラリアの症状に似ているとされており、数日おきに悪寒・発熱を繰り返す病気です。

 現代医学的にも、汗腺の働きが弱くなってしまうので適度に汗を出す方がよいと言われています。汗腺の働きが弱まるとうまく発汗できなくなり、体内にこもった熱を発散できなくなるため、熱中症にもなりやすくなってしまいます。

冷たい飲み物はほどほどに

美味しいですが、冷えたビールは控えめに

 夏といえば冷えたビールや清涼飲料水を思い出す人もいるかもしれませんが、東洋医学の立場から考えると冷えすぎた飲食物を過度に口にすることはおすすめできません。

 古代中国の本草書『本草拾遺』でも「夏冰」の項で夏の時期の冷飲食の害を次のように説いています。

  • 夏冰は、味が甘く、大寒にして無毒なり。……暑き夏 盛んにして熱く、これを食するは応(まさ)に気候と相反するべし。便(すなわ)ち人に宜しきにあらず。或いは恐らく腹に入り冷熱相激し、却って諸疾を致す。(陳藏器『本草拾遺』玉石部巻二)

 過度に冷えたビールなどを飲んで急激に体内を冷やすと、胃腸の機能低下や内臓の冷えを引き起こしてしまいます。おつまみを温める性質のものにしてバランスをとったり、帰宅後の一杯目だけ冷たいお茶を飲んで、二杯目からは温かいものにするなど工夫することが大切です。また、冷やしたものではなく、今回ご紹介したような冷やす性質のある果物を意識して食べるもの良いでしょう。