実は夏の飲み物だった甘酒、夏バテ防止対策におすすめ!

東洋医学コラム 食養生   蛭子喜隆
『守貞謾稿』巻6にある甘酒売りの図

『守貞謾稿』巻6にある甘酒売りの図(国立国会図書館蔵本より)

 甘酒と聞くと連想するのは冬の飲み物というイメージでしょうか?お正月に寺社に参拝すると温かい甘酒が振る舞われることもあり、寒い冬に温かい甘酒で体がぽかぽかするなど冬のイメージが強いかもしれません。

 夏に甘酒というのは意外に思われるかもしれませんが、「甘酒」は俳句では夏の季語になっています。どうしてかと言うと、江戸時代には夏バテ防止のために栄養価の高い甘酒が愛飲され、夏場の甘酒売りの売り歩きが夏の風物詩になっていたからです。

江戸時代の文献にみる甘酒と夏の関係

喜田川守貞『守貞謾稿』

 江戸時代後期に喜田川守貞によって著された『守貞謾稿』(『近世風俗志』岩波文庫)の中で、夏季専門で売り歩く商売人として「甘酒売り」が詳しく紹介されています。

夏月、専(もっぱ)ら売り巡るものは、甘酒売り、醴(あまざけ)売りなり。京阪は専ら夏夜のみこれを売る。専ら六文を一碗の価とす。江戸は四時ともにこれを売り、一碗価八文とす。

 上記の文章から、甘酒は、京阪(京都と大阪)ではおもに暑い夏の夜のみ売り、江戸では四季を通じて一年中売られていたことが分かります。京阪よりも江戸の方が微妙に値段が高かったみたいですね。

小川顕道『塵塚談』

『塵塚談』に云ふ、醴(あまざけ)売りは冬の物なりと思ひけるに、近比は四季ともに商ふことになれり。我等三十歳比までは、寒冬の夜のみ売り巡りけり。今は暑中往来を売りありき、かへつて夜は売る者少なし。浅草本願寺前の甘酒店は古きものにて、四季にうりける。その外に四季に商ふ所、江戸中に四、五軒もありしならん。

 上記の文章は、江戸中後期の医者である小川顕道の『塵塚談』の文を引用したもので、甘酒売りは冬の物だけでなく、一年中売られている、と言っています。小川顕道(1737~1816)は江戸時代中期の江戸生まれなので、江戸時代後期の生まれで大阪出身の喜田川守貞(1810~没年不詳)とは甘酒のイメージが少し違うのだと思います。

京都と大阪ではもともと暑い夏の夜のみ甘酒を売り歩いていた

 以上の文章から、京阪(京都と大阪)ではもともと暑い夏の夜のみ甘酒を売り歩き、江戸では一年中売り歩いていたことが分かります。ただし『塵塚談』によると、江戸時代中期頃までの江戸では寒い冬の夜だけ売り歩いていたようなので、江戸時代後期になってから暑い夏も含めて一年中売るようになったのでしょう。

 また「浅草本願寺前の甘酒店」などの記載から、売り歩きの行商人ばかりでなく、店舗をかまえて甘酒を売っていたことも分かります。

夏バテ防止対策に栄養満点な甘酒を!

 現代の栄養学から見ても、甘酒は、必須アミノ酸やビタミンB群が豊富で栄養満点なので夏バテ防止に適しています。また、発酵食品でもあるので善玉菌を増やして腸内環境を整え、便秘や肌荒れの改善などにも期待できます。他にも夏バテ気味で弱った胃腸の方にも疲労回復の栄養ドリンクとしておすすめです。甘酒が飲む点滴と言われるのも納得です。

 現在では、従来の温めて飲む甘酒だけではなく、冷やして飲む甘酒も商品化されているようです。興味を持っていただいた方は、古くて新しい夏に飲む甘酒をぜひ試してみてください。