ココナッツウォーターの効果を東洋医学的に考えてみた

東洋医学コラム 食養生   蛭子喜隆

本草学的には体内の水分調節作用があると考えられる

 ココナッツウォーターは、天然のスポーツドリンクとも言われ、南国ではお馴染みのものです。最近ではその健康効果のみならず美容効果も注目され、ココナッツウォーターを愛飲する人が増えているようです。

 ヤシの種類は、非常に多くて三千種以上あるとも言われますが、一般的にココナッツと言っているものは、ココヤシという種類の椰子の果実になります。ココナッツは、繊維質の厚い殻に包まれており、その殻の中に種子があります。種子の中に、白色の果肉(固形胚乳)と透明な液体(液状胚乳)があります。

 ヤシの皮の繊維は、編んでロープにしたり、昔ながらの亀の子たわしの原材料として使用されたりしていますし、ココナッツの殻は、ココナッツ・ボウル(トレイ)など器としても利用されます。また、白色の果肉(固形胚乳)は、ココナッツ・ミルクやココナッツオイル(ヤシ油)、化粧品や石鹸の原材料などとして利用されています。

ココナッツ

ココナッツ

 そして、透明な液体(液状胚乳)は、ココナッツウォーター(ジュース)として飲んだり、酢酸菌の発酵でゲル状にしたものをナタ・デ・ココとして食したりしています。ココナッツは、どこも捨てる部位がなく、本当に素晴らしい自然からの贈り物です。

東洋医学的には理水効果のあるココナッツウォーター

 そんなココナッツウォーターですが、東洋医学的にはどのような効果が考えられるでしょうか。本草書にも椰子(ヤシ)についての記載があるので今回調査をしてみました。

 今から1200年以上前の唐代に著された『本草拾遺』木部には、椰子(ヤシ)の効能として「理水」(水を理【おさ】める)とあります。とてもシンプルな文章ですが、体内の水分バランスを整えるという意味にとれます。体液不足の時はその不足分をよく補充し、逆に体内の水分過多の場合には、利尿作用によって浮腫(むくみ)を解消する作用がある、という指摘だと思います。

ココナッツウォーターは体を温めるのか冷やすのか?

 本草書には、飲食物の性質が記載されており、例えばその食べ物が体を冷やすのか温めるのかについても紹介されています。ココナッツウォーターは「椰子漿」という名で登場しますが、本草書中に、温める説と冷やす説の正反対のことが記載されていました。

 結論としては、ココナッツウオーターに温める性質はないと判断しましたが、以下にその根拠を挙げていきたいと思います。

そもそも椰子漿とは何かを調べると、椰子酒と果汁の二通りの意味が

 寒熱の性質をはっきりさせる前に、そもそも本草書の中の椰子漿は何を指しているのか調査してみると、面白いことが見えてきました。

 「椰子漿」とは、一般的にはココナッツウォーター(ジュース)のことです。ただし、詳しく調べるとそれ以外にも意味があり、それがとても重要になってきます。

 椰子漿の「漿」には、いくつかの意味があります。白川静『字統』では「〔説文〕ニ上に「酢漿なり」というのは、濃漿(こんず)。粟米を醸した酒である。〔周礼〕に四飲、また六飲の一とされる酒の一種。またおもゆや飲料の総称として用いる。」と解説しています。

 また『大漢和辭典』巻七(二四八頁)には八つの意味が載っていますが、ここではその内の二つの意味が当てはまりそうです。一つ目は「のみもの。飲料の液汁の総称。」という意味であり、二つ目は「こんず・はやす・酒の一種。」という意味です。

 一つ目の意味では、ココナッツウォーターになり、二つ目の意味では、アルコール飲料の椰子酒になります。

『証類本草』巻十四

『証類本草』「椰子」

『証類本草』に記載される椰子についての解説

椰子漿、これを服せば、消渇を主(おさ)む。頭に塗れば髪を益し黒くせしむ。安南に生ず。樹は椶櫚(しゅろ)子のごとし。殻は器となすべし。『交州記』に曰く、椰子の中に漿あり。これを飲めば醉を得る、と。

(原文:【椰子漿】服之。主消渇。塗頭益髪令黑。生安南。樹如椶櫚子。殻可爲器。交州記曰。椰子中有漿。飲之得醉。)」

 『証類本草』で引用される『交州記』の「椰子の中に漿あり。これを飲めば醉を得る」というのは、椰子の中の「漿」を飲んで酔っ払う、ということです。この場合の「漿」とは、上記の二つ目の意味で書いてあり、アルコール飲料であるヤシ酒を飲んだ結果として酔っ払ってしまった、ということになります。

 現在の椰子酒の一般的な作り方は、果実のココナッツからではなく、椰子の“樹液”を採集して1~2日で自然に発酵してできてしまうというものが多いようなので『交州記』でいう「椰子の中に漿あり。これを飲めば醉を得る」という内容とは符合しないようにも感じます。

 ただし、今では一般的ではないもののココナッツの果汁を発酵してつくる椰子酒もあるようなので『交州記』の内容とは矛盾しません。つまり椰子酒といっても、樹液からつくるものと果汁からつくるものとの違いがあることになります。この点については、情報不足でちゃんと突きとめられなかったのが心残りです。

 「頭に塗れば、髪を益して黒くせしむ(塗頭益髪令黑)」というのは、現在でもココナッツ・オイルで行われているヘアケアと同じことです。あとは、「殻は器となすべし」として椰子の殻を器にして利用するのも今と同じです。『証類本草』は、1100年頃に著されたと言われているので、約900年前も今と同じようにココナッツを生活に役立てていたことが分かります。

『食物本草』巻之九

椰子の漿は、味甘く、温にして無毒。消渇を止め、吐血水腫を治し、風熱を去る。丹溪曰く、椰子は海南極熱の地に生じ、土人はこれを頼って夏月の毒渇を解く。天の生物は各おのその材に因るなり。

(原文:【椰子漿】味甘,温,無毒。止消渇。治吐血水腫,去風熱。丹溪曰:椰子生海南極熱之地,土人賴此解夏月毒渇。天之生物,各因其材也。)

 味は甘く、温める性質があり、無毒であると解説し、効能としては、吐血や水腫を治し、身体の余分な熱を取ってくれる、としています。さらに元代の著名な医家である朱丹溪の説を引用して、椰子は南国猛暑の土地に自生し、現地の人たちはこれを頼って夏の激しい喉の渇きを解消している、という解説を紹介しています。

『本草綱目』巻三十一

【椰子漿】〔氣味〕甘。温。無毒。〔主治〕止消渇。塗頭益髪令黑。治吐血水腫。去風熱。

 『本草綱目』は、基本的には『食物本草』の文章と同じです。違うのは「頭に塗れば、髪を益して黒くせしむ(塗頭益髪令黑)」という一文の有無だけです。元々この一文は『証類本草』にあります。

 あと意外に大切なのは、唐代の『本草拾遺』や宋代の『証類本草』には無かった「甘。温。無毒。」という“気味”についての記載が、明代の『食物本草』や『本草綱目』では明記されるようになります。逆に、なぜ『証類本草』に気味についての記載がないのかが分かりません。

 面白いのは、唐代ではココナッツウォーターは、冷やす性質があると考えられていたのに、明代に著された『本草綱目』の著者である李時珍は、温める性質があると強く主張している点です。以下に詳細を紹介します。

 『本草綱目』の注釈に「珣曰く、多食すれば冷えて気を動ず(〔珣曰〕多食冷而動氣)」とあります。「多食」とあるので、ココナッツウォーターではなくて果肉のことを解説しているのだと思います。

 珣とは、おそらく唐代の李珣のことで、その著書に『海藥本草』があったようです。残念ながら原書は早くに失われてしまい、今に伝わっていません。

ココナッツウォーター

摂り過ぎると体を冷やしてしまうことも

 唐代の李珣の説としては、南国の果実である椰子は体を冷やす性質があると考えていて、過食すると体を冷やし過ぎてしまうので注意が必要だ、という指摘です。この考え方は、とても自然なものです。

 今でも、多くの夏野菜が夏の暑さで火照(ほて)った体を程よく冷まし、多くの冬野菜が冬の寒さで冷えてしまった体を程よく温める作用があると考えられています。地産地消もそうですが、現地で採れた食材は、その環境で暮らす人達の健康に良い効果がある、と考えられます。

 それに対して、明代の李時珍は、椰子漿について「その性は熱なり。故にこれを飲む者は、多く昏(くら)むこと醉状のごとし。『異物志』に云ふ、その肉を食せば則ち飢えず、その漿を飲めば則ち渇きを増す(〔時珍曰〕其性熱。故飮之者。多昏如醉状。異物志云。食其肉則不飢。飮其漿則增渇。)」と解説しています。

果汁としての椰子漿には温める作用はない

 ココナッツウォーターの温冷の性質について、唐代の李珣と明代の李時珍では正反対の捉え方をしているように感じますが、ちょっとした誤解があるのだと思います。はるか昔から現在に至るまで、南国の人達に愛飲され続けているココナッツウォーターが、もし飲むほどに「渇きを増す」のであれば、早くに飲まれなくなってしまったはずです。ちゃんと喉の渇きを潤すからこそ今でも飲まれ続けているわけです。

 同じ明代でも『食物本草』では『本草綱目』のような解説をしていないので、李時珍が独自に主張したもののようにも見えます。しかし、独自の主張にも思える李時珍の説は、『証類本草』が引用している『交州記』の「椰子の中に漿あり。これを飲めば醉を得る」という文章を参考にした可能性が高いと思います。「醉を得る」とは、酔っぱらうという意味です。つまりアルコール飲料ということになります。

 前述したように、ココナッツの果汁が発酵してできる椰子酒もあるようなので、それを混同してしまったために混乱が生じたのだと思います。つまりココナッツウォーターも、それを発酵させてつくった椰子酒も、ともに「椰子漿」として区別しなかったためにややこしくなったのだと推測できます。

 以上のことをまとめると、椰子漿について、李時珍が「その性は熱なり。故にこれを飲む者は、多く昏(くら)むこと醉状のごとし」と解説したり、『異物志』を引用して「渇きを増す」と紹介しているのは、ココナッツウォーターのことではなくて椰子酒のことを言っており、アルコール飲料である椰子酒を飲めば、飲んだ後に体が熱くなって脱水を引き起こし、余計に喉が渇くのは当然のことです。

 椰子漿について、唐代の李珣は、ココナッツウォーターのことを言い、明代の李時珍は椰子酒のことを解説していたことになり、どちらの解説も間違っていないことになります。個人的には、ココナッツウォーターの性質は「甘。平。無毒。」の方がふさわしいようにも感じます。果汁(液状胚乳)と果肉(固形胚乳)はともに同じ“胚乳”なので似たような性質を持つはずですし、実際に「椰子瓤(ヤシの果肉)」について『本草綱目』では「甘。平。無毒。」と記されています。

 李時珍の『本草綱目』は最も有名な本草書のひとつであり、後世に多大な影響を与え続けて現在に至っています。推測の域を出ませんが、以上のような椰子漿についての混同は李時珍の『本草綱目』以前からあったものの、もしかしたら、影響力のある李時珍の誤解を招くような解説が決定打となり、椰子漿の気味は「甘。温。無毒。」ということで固定化されてしまったのかもしれません。

 とてもややこしいだけでなく、非常に混乱が生じてしまったはずです。それでも、李時珍は『本草綱目』の中で、自説とは異なる唐代・李珣の『海藥本草』などの貴重な文章を随所に引用してくれているので非難ばかりされるべきではありません。その功罪をよく知った上で利用するのがよいのだと思います。

肌をよく潤すという美肌効果も

美容効果に関しては『本草綱目』巻三十一に次のように記されています。

椰子の瓤は、氣味は甘く、平にして無毒。主治は、気を益し、風を治す。これを食せば飢えず。人の面をして沢(うるお)わしむ。

(原文:【椰子瓤】〔氣味〕甘。平。無毒。〔主治〕益氣。治風。食之不飢。令人面澤。)

 「人の面をして沢(うるお)わしむ。」とは、肌をよく潤すという美肌効果についての言及です。「瓤」とは白い果肉の部分です。果肉からつくられるココナッツ・オイルには、ビタミンEが豊富に含まれています。ビタミンEは、若返りのビタミンとも言われ、抗酸化作用と保湿効果があるので、塗ることでも美髪・美肌効果があると言われています。

 現代の栄養学から見ても、ココナッツ・ジュースは、低カロリーで脂質がゼロでありながら、カルシウム・マグネシウム・カリウム・ナトリウムなどのミネラルがとても豊富です。中でも特に多く含まれるカリウムには、体の余分な水分を排出して、むくみ解消に効果があります。昔からよくイライラしやすいとカルシウム不足と言われますが、カルシウムとマグネシウムには神経の興奮を鎮める作用があるので、イライラ防止にも役立ちます。

 また、美肌づくりに欠かせないビタミンB類・ビタミンC、貧血予防の鉄分、葉酸や母乳の成分としても知られているラウリン酸なども含まれています。母乳成分でもあるラウリン酸には、抗菌作用や抗酸化作用があり、免疫力を高める効果も期待できると言われています。

まとめ

 今回、ココナッツウォーターについて色々と調べたので、実際に果汁100%のココナッツウォーターを購入してしばらく飲んでみました。先にほのかな甘みがあり、後味として独特の風味が口の中に残ります。個人的には、けっこう美味しいと感じましたが、人によってはクセのある味と感じてしまうかもしれません。特に常温でぬるいと余計にクセのある後味が際立つ感じがします。そのせいか「よく冷やし、軽く振ってからお飲みください」と表記されています。確かに、ほどよく冷やして飲んだ方が美味しいです。

 実体験から言えば、ココナッツウォーターを飲んだ後はちゃんと喉の渇きが癒されました。ココナッツウォーターに豊富に含まれているカリウムには、余分な塩分(ナトリウム)を体外へ排出する働きがあるので、塩分過多による喉の渇きを癒すにはとても有効です。

 NHKの子育て番組で「食物アレルギー」について特集され、ココナッツミルクが紹介さていました。それは、ホワイトソースの代替レシピとして牛乳を使わないで豆乳やココナッツミルクで代用するというものでした。これで牛乳を使わないでもクリームシチューやグラタンを作って食べることができます。またココナッツ・オイルの方も、スキンケアのために塗っても良いし、料理に使って食べても体に良いのでこちらもおススメです。

 ココナッツウォーターは、独特の風味があるので人によってハマる人とダメな人に別れると思います。まだまだ認知されていないので、店頭で100%果汁のココナッツウォーターを見かけることはあまりないと思いますが、気になった方はぜひ一度試してみてください。

関連記事