昭和初期の鍼灸学校教科書に記載される養生灸

家庭でできるつぼ療法   宮下

「のどが渇いてから井戸を掘り始める」という話が、鍼灸学の古典の『素問』という文献に記載されています。これは、症状が出始めてから慌てるようではまだまだ未熟であり、予防が大切であるという意味で、予防的な治療を行う者こそが名医であるということを説明する有名な一節で登場するたとえ話です。

皆さまの中にも、とりわけ具合の悪い状態ではないけれども、お灸で健康維持や予防をしたいとお思いの方は多いと思いますが、今回は健康増進や予防目的に行う養生灸を、なんと昭和初期に鍼灸学校で使われていた教科書からご紹介したいと思います。

最新鍼灸医学摘要

最新鍼灸医学摘要

その教科書は『最新鍼灸医学摘要』というタイトルで、終戦後に鍼灸師の資格が国家資格になったののあわせて、現代医学的な解剖学や生理学から、鍼灸の治療法やツボについて網羅的にまとめられています。

編者は柳家素霊(1906年~1959年)という昭和初期に大活躍した鍼灸師で、この業界人であれば誰でも知っている伝説的な人物です。海外でも活躍され、あの画家のピカソの治療をしたことでも知られています。

今回はその『最新鍼灸医学摘要』から、養生灸についての部分をご紹介したいと思います。まず、以下に養生灸の箇所を引用いたします。

二四、養生灸

病人でない人が健康を増進する為め、且つ疾病の予防をする為めに施灸すること

(1)施灸部位-足三里、身柱、関元、三焦兪、三陰交、膏肓、肺兪、天枢等の穴

(2)施灸法-毎月三日又は八日間五壮乃至十一壮施灸する、

(3)艾炷の大きさ-一般的に米粒大を使うが、小児、婦人、虚弱な人は半米粒大、

(4)奏功理由 血液の循環が盛んになり、細胞の活力が旺盛し、施灸によって産出された変性蛋白体(刺戟物)が造血器の作用を盛んにして血液成分を産出せしめ、ホルモンの作用を整調し、経穴経絡の治効作用を喚起する為に奏功す。

此問題は健康増進灸とも、虚弱体質に対する灸ともいう。

※柳家素霊『最新鍼灸医学摘要』第6版,1988年(初版,1946年),p133より

以上が養生灸の概要ですが、実際のツボの場所を図でご説明いたします。

養生灸の場所

足三里

足三里の場所

三陰交

三陰交の場所

お腹

関元・天枢

天枢と関元

背中

背中のツボは自分ではお灸をしづらく、ツボを取るのもプロでないと難しいのですが、大まかな場所は以下のようになります。肩甲骨周囲のツボは、図に示した肩甲骨を三分割したラインABを基準に取ってみて下さい。

背中のツボ

身柱

ラインA上で、背骨の真ん中

肺兪

ラインA上で、背骨から指の幅3本文くらい外側

膏肓

ラインB上で、肩甲骨の内側の際

三焦兪

ウェストのくびれが始まるあたりを左右結んだライン上で、背骨から指の幅3本文くらい外側

養生灸の頻度

お灸の頻度としては、毎月3日間から8日間とありました。この日数は連続した日数なのか、合計日数なのかは不明です。

週に1~2回程度のお灸を続けてもよいでしょうし、毎月お灸週間のようなのを自分で決めて、その週はほぼ毎日やるというのもひとつのアイデアな気がします。

まとめ

今回は養生灸をご紹介しましたが、予防は健康であるからこそ可能になります。

どんな事にも通じると思いますが、何事も大きく崩れてしまってからはなかなか修正することが難しくなりますので、定期的に体のメンテナンスをして、軽いほころびをなおして大きな体調の崩れを予防することは大変重要ですね。

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