大豆食品の効能を江戸時代の文献より探る

食養生   宮下

味噌や豆腐などの原料にもなり、節分の豆まきでも使われる大豆は、日本人にとって大変なじみ深い食材です。

最近では、大豆イソフラボンという成分も注目されているようですが、東洋医学的に大豆とその加工食品にどういった効能があるかを、江戸期の『本朝食鑑』という本草書から調査してみました。

『本朝食鑑』について

『本朝食鑑』味噌

『本朝食鑑』(国立国会図書館蔵本)

『本朝食鑑』は江戸時代の人見必大がまとめた本草書で、日本人独特の食習慣に合った食物の情報が収録され、例えば蕎麦や魚の薬味としてのワサビの効果についての記載もみられます。

平凡社の東洋文庫から現代語訳つきのものも発行されており、手軽に本草学を食生活に応用したいとお思いの方には大変便利です。また、国会図書館のウェブサイトから原本の画像が前ページ閲覧可能です。この記事を書くにあったても国会図書館所蔵本を参考にさせていただきました。

大豆食品の効能

それでは、以下が『本朝食鑑』にある大豆食品の効果になります。今回は味噌、豆腐、納豆について調べてみました。原文が漢文なので、書き下しと意訳を付け加えてあります。

大豆

原文(書き下し)

下氣寛中利腸(氣を下ろし、中を寛し、腸を利す。)

意訳

気を下げ、胃を寛がせ、腸の通りを良くする。

まず、大豆そのものの効能ですが、原文に「気を下ろし」とあります。わかりやすい症状で例えると、頭がのぼせた状態を改善するということです。また、「寛中利腸」とあり、胃腸の通りを良くすると解釈ができます。なお、『本草綱目』では、「水腫を消す」とあるので、浮腫の解消にも応用できそうです。

味噌

原文(書き下し)

補中益氣調脾胃滋心腎定吐止瀉強四肢烏鬚髪潤皮膚能収産後血暈敗血及趺撲損傷之血悶壮病後之羸衰老人小児倶好専解酒毒及鳥魚獣菜菌毒(補中益氣し、脾胃を調え、心腎を滋し、吐を定め、瀉を止め、四肢を強くし、鬚髪を烏くし、皮膚を潤し、能く産後の血暈、敗血及び趺撲損傷の血悶を収む。病後の羸衰を壮にす。老人小児は倶に好し。専ら酒の毒及び鳥魚獣菜菌の毒を解す。)

意訳

補中益氣し※1、脾胃を調え、心腎を滋養し、嘔吐や下痢を止め、四肢を強くし、鬚や髪の艶を増して黒くし、皮膚を潤し、産後のめまい、敗血及びねんざや打撲などの損傷による血の欝滞を収束させる※2。病後の衰弱を回復し、老人や小児にも良いものである。酒の毒及び魚や肉、野菜、菌類の毒を解く。

※1:「補中益氣」は胃の働きを良くすることで体力を回復させること。

※2:「敗血」産後に生ずる血の異常の類。『婦人大全療方』産後血暈方論第五に、「敗血」が肝経に流入することで血暈になるという記載がある。

大豆食品の中では、味噌が最も効能が多く、日常的に食事の中に取り入れると良さそうな印象です。基本としては胃腸の症状全般に効果的で、病後や産後の体力回復など、滋養によいという感じです。味噌汁などにすれば手軽に食事に取り入れることができますね。

納豆

原文(書き下し)

下氣調中進食解毒(氣を下ろし、中を調え、食を進め、毒を解す)

意訳

気を下げ、胃を調え、食を進め、解毒作用がある。

味噌と同様の発酵食品ですが、こちらは大豆そのものとほぼ同じ効能になっています。

豆腐

原文(書き下し)

清熱散血治赤眼腫痛消脹滿下大腸濁氣止久痢解酒毒(熱を清し、血を散じ、赤眼腫痛を治め、脹滿を消し、大腸の濁氣を下し、久痢を止め、酒の毒を解す。)

意訳

熱を冷まし、血の欝滞を散らし、目の充血、腫れ痛むものを治め、腹の張りを消し、大腸の濁氣を下し、慢性の下痢を止め、酒の毒を解く。

豆腐は冷やす性質があるので、熱を冷まします。その反面で、食べ過ぎると腹を冷やして下痢をするとされています。「久痢(慢性の下痢)」への効果をうたっているので、矛盾を感じなくもないですが、食べ過ぎたときに発生する害ということでしょう。

また、「血を散じ」とありますが、これは血の滞りを散らすようなイメージです。眼が充血し、腫れ痛むような時にもよいというのも他の大豆食品にはない効能になります。基本的な胃腸症状に対する効果は大豆そのものを食べるのとそれほど変わりません。

食べ過ぎには注意

以上が『本朝食鑑』にある大豆食品の効能でした。基本的にはやはり大豆のもつ胃腸を調える効果が共通としてあり、後はそれぞれの食品特有の効果があるようでした。味噌は特に日常的にとるのに良さそうですね。

なお、大豆に含まれている大豆イソフラボンについては、サプリメントなどで過剰摂取すると様々な害があるというデータもあり、内閣府の食品安全委員会の『大豆イソフラボンを含む特定保健用食品の安全性評価の基本的な考え方』※3というレポートにまとめられ、インターネットでも公開されています。

これは、今回ご紹介した味噌や豆腐などの食品から摂取する大豆イソフラボンのことではなく、サプリメントなどから摂取した場合の安全性についてです。

わざわざ摂取量を気にしながら大豆イソフラボンなどという成分を取ることばかり考えるのではなく、本草学的な効果を得たい場合は食品でとるようにしましょう。

※3:内閣府食品安全委員会『大豆イソフラボンを含む特定保健用食品の安全性評価の基本的な考え方』(pdf)

※4:『本朝食鑑』の原文はこちらから閲覧できます。

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